院長のコラム

福井院長が解説するコラム
       
  かわさき記念病院 院長の福井俊哉です.
2016年7月から2017年7月まで「認知と認知症のコラム」を掲載してきました.
さて,2017年8月からの予定ですが,「認知症と神経疾患の話題」とタイトルを変えて様々な話題を随時解説していきたいと思います.
今までは「教科書的」でしたのでこれからは若干「応用問題的」にしていこうかと考えています.毎月どのような内容が登場するかについては毎回のお楽しみとしてください.
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認知症と神経疾患の話題

⇒ 2018年12月:大脳皮質基底核変性症の病理

大脳病理に左右差のあることがCBDの特徴です(ただし左右差が明確ではない場合もあり診断が難しいことがあります).

典型的には中心溝(前頭葉と頭頂葉を分ける溝)周囲の中心領域(前頭葉・頭頂葉の境界)の大脳皮質萎縮,および淡蒼球,視床下核,歯状核の変性がみられます.顕微鏡所見としては,大脳皮質における風船様腫大神経細胞(ballooned neuron;いわゆるPick細胞)と神経細胞とアストロサイト(神経細胞をつなぐ膠質細胞)内の異常リン酸化タウの蓄積を特徴とします.アストロサイト突起内のタウ沈着はastrocytic plaque(アストロサイト斑)と称され,CBDを特徴づける病理所見とされています.

他方,CBDはPick病の病理学的に近似性があり,Pick病の病理分類の中で,「Pick細胞を有するがPick球を欠くもの(Pick病 type B;2017年6月コラム参照)がCBDの病理所見に一致します.一方,臨床的には典型的なCBDであっても,その原因疾患としてCBD以外にもアルツハイマー病,レビー小体型認知症,クロイツフェルトーヤコブ病があることが分かってきました.CBD臨床症状が必ずしもCBD病理に基づくとは限らないことから,最近はこの臨床・病理集合を「corticobasal syndrome (CBS)」と称する考え方が主流になりつつあります.

来月以降はクロイツフェルト-ヤコブ(Creuitzfeldt-Jakob)病について解説したいと思います.

⇒ 2018年11月:大脳皮質基底核変性症の検査所見

CT/MRI・SPECT:臨床症状に対応して左右差が強いことが特徴とされています.しかし,発症直後や左右差の目立たない症状(例えば構音障害など)の場合は非対称性が目立たない場合もあり,左右差がないことは必ずしもCBDを否定する根拠にはなりません.

脳萎縮・血流低下部位は症状と反対側の中心領域(前頭葉後部~頭頂葉前方部の中心溝周囲)に目立ちます. 核医学:進行性核上性麻痺と同じく,ドパミントランスポーターSPECTでは線条体の取り込み低下(活性低下)がみられますがMIBG心筋シンチに異常はありません(自律神経障害がない).

来月は大脳皮質基底核変性症の身体症状について解説します.

⇒ 2018年10月:大脳皮質基底核変性症の認知症状

今月は大脳皮質基底核変性症(CBD)の認知症状について解説します.
CBDでは前頭葉機能障害,肢節運動失行・観念運動性失行,視空間認知障害(以下に説明)とともに,PSPと同様に原発性進行性失語の1タイプである進行性非流暢性失語の原因疾患として重要視されています.一方,発症時に易転倒性,歩行障害,核上性眼球運動障害が認められ,CBDとPSPの初期鑑別が困難な症例も少なくありません.
用語の復習をします.

前頭葉機能(2016年11月コラム参照):実行機能(計画実行力),注意(精神集中や広く注意を払う能力),複数課題の処理能力(同時にいろいろな仕事ができる能力),思考セットの変換(頭の切り替え),思考スピード(頭の回転の速さ),帰納的推測(個々の情報から総合的一般論を見出す能力),社会適応能力(自分の立ち位置を失うことなく社会と摩擦を生じないで行動する能力)などを指します.

肢節運動失行:運動障害と失行(2017年2月コラム参照)との間に位置する行為障害です.机の上のコインを拾い上げる,手袋に手を入れるときの「不器用な手・指の使い方」と表するとわかりやすいと思います.
観念運動性失行(2017年2月コラム参照):ジェスチャー障害ですが,「似ているが違うことをする」行為障害です.バイバイをさせると招き猫のような手の運動をする,など.

視空間認知障害(2017年2月コラム参照): 「視空間認知」とは自分と自分を取り巻く空間との関係を正しく知覚して判断する能力です.これが障害されると,車を車庫に入れることができない,場所に迷う,描いた絵が空間的に歪む,などの症状として現れます.

⇒ 2018年09月:大脳皮質基底核変性症とは?

概念的には大脳皮質基底核変性症(Corticobasal Degeneration:以下CBD)は過去3か月間でお話ししてきた進行性核上性麻痺と病理学的には兄弟のような疾患であるとお考え下さい.しかし症状はかなり異なります.
今月は大脳皮質基底核変性症(CBD)の歴史と身体症状について解説します.

CBDは当時学生であったRebeizらにより1968年に初めて報告された疾患です.その原著には,非対称の筋強剛,観念運動性失行,皮質性感覚障害(例:紙やすりの粗い・細かいなどの差が分からない),ミオクローヌス(ピクッとする不随意運動),ジストニア(四肢・体幹をねじったような肢位をとること),”alien hand sign”(自分の意志には関連しない目的的・無目的的な四肢の行為)が記載されています.

厚生労働省の大脳皮質基底核変性症の診断基準には,中年発症・緩徐進行性疾患,左右非対称性でレボドパ無効の錐体外路症状(筋強剛・無動,ジストニア,ミオクローヌス),大脳皮質徴候(皮質性構音障害,失語,失行,皮質性感覚障害,alien hand sign)と要約されていますが,錐体路徴候(四肢痙性,深部腱反射亢進,病的反射)の存在も重要です.

来月はCBDの認知症状について解説しましょう.

⇒ 2018年08月:進行性核上性麻痺の認知症状

先月お話しした進行性核上性麻痺(PSP)の4型(Steele-Richardson-Olszewski型・PSP-パーキンソニズム型・ PSP-小脳失調型・純粋無動型)と,それぞれに随伴する認知症状の内容や程度との関連はまだ明らかにされていません.また個々の症例によっても認知症状が異なることにも注意が必要です.

一般的にPSPではアパシー,衝動性,易怒性が目立ち,幻覚,妄想は少ないとされています.アルツハイマー病に代表される海馬性記憶障害(記憶形成の障害)は古典的に「皮質性認知症」と称されますが,PSPの認知障害はそれに対して「皮質下性認知症」と呼ばれます.

具体的には,思考緩慢(考えるスピードが遅い),実行機能障害(物事の手順が悪い),考え無精(考えようとしない),反響言語/行為(相手の言葉や動作を反射的に繰り返す),把握反射(手掌への刺激で手指が屈曲する),本能性把握反応(視覚・触覚的に刺激を与える対象物を掴もうと手が追いかける)とその発展形である病的な到達運動(目の前の物品や診察医の身体に手を伸ばしてくる)などの,前頭葉機能低下を主体とした認知症状が特徴的です.

一方,発症から2年間は認知症を伴わないで主に失語(言葉の障害)が進行するものを「原発性進行性失語」と称し,その原因として前頭側頭葉変性症が良く知られています.原発性進行性失語の1タイプである「進行性非流暢失語」の原因の半数はPSPや,来月以降お話しする大脳皮質基底核変性症である点からもPSPと大脳皮質基底核変性症が前頭側頭葉変性症と類似性を有していることがうかがわれます.
ということで,来月からは大脳皮質基底核変性症について解説していきます.

⇒ 2018年07月:進行性核上性麻痺の身体症状

PSPには身体症状の特徴から大きく4タイプに分類されます.

・Steele-Richardson-Olszewski型(PSP-RS):
原著の著者名がついた最も古典的な病型です.中年以降の発症が多く,垂直方向の眼球運動障害と衝動性眼球運動障害,頸部後屈,頸部に高度の筋強剛,左右差のない四肢筋強剛,構音・嚥下障害,小歩・動作緩慢・無動,初期からの姿勢反射障害,尿失禁などのPSPとして典型的な身体症状を呈します.「進行性核上性麻痺」との名称は実はこのタイプにみられる眼球運動障害を言い表していますが,疾患全体の名前になりました.

・PSP-パーキンソニズム型(PSP-P):
PSP-RSの特徴が目立たず,振戦があり症状の左右差が明確でレボドパが有効であることからパーキンソン病と類似している点があります.区別をするためには2018年5月のコラムで述べたMIBG心筋シンチを行うことが勧められます.パーキンソン病は異常所見を呈しますが,PSPでは異常は見られません.

・PSP-小脳失調型(PSP-C):
やはりPSP-RSの特徴はなく小脳性運動失調症が目立つことから脊髄小脳変性症や多系統萎縮症との鑑別に注意が必要です.最近日本から提唱された臨床型です.

・純粋無動型(Pure akinesia):
高度のすくみ足が唯一の臨床症状であり,ほかの臨床型の特徴は有せず,レボドパは無効です.やはりパーキンソン病との鑑別が困難です

来月はPSPの認知症状の解説です.

⇒ 2018年06月:進行性核上性麻痺とは?

かなり長い間,レビー小体病についての解説にお付き合いいただきましてお疲れさまでした.今月からは別の疾患を話題にしたいと思います.具体的には,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,クロイツフェルト-ヤコブ病,正常圧水頭症を順次紹介します.今月から数回,進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy:以下PSPと略します)について解説していきます.

1.病理の特徴:まず,PSPはレビー小体病やアルツハイマー病とは病理所見が根本的に異なり,PSPは異常リン酸化タウの沈着を特徴とする点で前頭側頭葉変性症に類似点を有した疾患です.やや難しい話になりますが,視床下核,基底核(淡蒼球),脳幹(黒質,赤核,脳幹被蓋)や小脳歯状核の神経細胞が減少し異常リン酸化タウが沈着します.神経細胞とアストロサイト(注 参照)内のタウ沈着はそれぞれ,渦巻き型神経原線維変化,房状アストロサイトと称され,これらがPSPに特異的な顕微鏡的所見とされています. 注:アストロサイト=星状細胞 神経細胞と血管を構造的・機能的に支える役割を担う非神経細胞

2.検査所見
1)CT/MRI:中脳被蓋(中脳の背側)萎縮(水平断では中脳のmickey mouse sign(ミッキーの顔のように見える)/morning glory sign(朝顔のように下部 (被蓋) がすぼまっている), 矢状断では中脳四丘体の萎縮によりhumming bird sign(前額部が張り出していないハチドリの横顔のように見える),第III脳室の円形拡大(島の萎縮を反映),前頭葉側頭葉の対称性萎縮,小脳・上小脳脚萎縮が特徴です.
2)脳血流量検査:主に前頭葉・側頭葉の取り込み低下がみられます.
3)ドパミントランスポーターSPECT:レビー小体型病と同様に線条体取り込み低下がみられます.
4)MIBG心筋シンチ:異常はありませんのでレビー小体型病との鑑別診断に有用です. 来月はPSPの身体症状についてお話します.

⇒ 2018年05月:レビー小体病を見つける検査法:特異的検査

1)ドパミントランスポーターSPECT:脳幹部にある黒質から,基底核の一部をなす線条体に向かうドパミン系に存在するドパミントランスポーターを画像化し,ドパミン系機能を評価する検査です.正常な線条体は寸胴な「たらこ」状に見えますが,異常を有する場合は,この「たらこ」が下のほうからやせ細り頭だけが残った「おたまじゃくし」のようになります(被殻から取り込みが低下して尾状核頭が点状に残存).PD/DLBでは障害されますが,アルツハイマー病,前頭側頭型認知症,血管性認知症では基本的には正常ですから鑑別診断に有用です.一方,この検査法を用いても,同じくレビー小体病であるPD/PDD/DLBや多系統萎縮症との区別をつけることはできません.また,黒質線条体のドパミン系が同様に障害される進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症とレビー小体病の鑑別にも役立ちません.さらに,発症時にはまだドパミントランスポーターSPECT上の異常は見られずその後の経過で異常が明らかになる場合,また逆に臨床症状が出現する前から異常が見られる場合があることに注意を要します.

2)MIBG心筋シンチ:レビー小体病では自律神経系が障害されることを背景に,交感神経節後線維である心臓交感神経の障害を判定する検査法です.注射した薬剤(MIBG)が心臓交感神経を含有している心筋に取り込まれその濃淡を撮像します.取り込みのないバックグラウンド(縦隔)を1にした場合の心筋の取り込みの比(心臓縦隔比)をもってその指標とします(正常は2.2以上).心臓縦隔比はレビー小体病で低下しますが,自律神経に障害をきたさないアルツハイマー病,前頭側頭型認知症,血管性認知症では低下せず,またドパミントランスポーターSPECTでは異常を呈する進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症でもMIBG心筋シンチは正常に保たれるためPD/DLBの鑑別に有用です.一方,糖尿病性自律神経障害や心筋自体に障害の場合には異常所見を呈すること,また,ドパミントランスポーターSPECTと同様に偽陰性があることに注意が必要です.

⇒ 2018年04月:レビー小体病を見つける検査法:一般検査

以前のコラムで,「パーキンソン病は「見ればわかる」疾患なのです」と書きましたが,レビー小体病と,パーキンソニズム(2018年2月コラム参照)を呈するほかの疾患(血管性・薬剤性パーキンソン症候群など)を区別することに苦労することがあります.
そのようなときに有用な検査法を紹介します.
1)頭CT/MRIは脳の形を診る検査ですので「形態画像検査」と呼ばれます.これらは「補助的診断検査」と言われるだけあり,臨床症状を解釈するための補助手段として診断に寄与します.頭CT/MRIを見ただけではレビー小体病かどうかは診断できません.脳の形態画像のみで診断が下るものは,脳血管障害,脳外傷,脳腫瘍,正常圧水頭症などの脳外科領域の疾患が主体となります.レビー小体病の場合は他の変性性脳疾患のような画像的特異性(例:アルツハイマー病における海馬萎縮など)を欠くことが特徴です.一方,前述したアルツハイマー病病理が合併している場合は海馬・皮質萎縮が目立ってきます.
2)脳血流量検査(SPECT)は脳の機能を診る検査ですので「機能画像検査」と呼ばれます.一般的にはDLBにおける後頭葉取り込み低下が有名であり,「後頭葉取り込み低下のない症例はDLBにあらず」という誤解まで生じています.確かに,DLBの「アルツハイマー病に対する」血流低下部位は頭頂後頭葉であるとされていますが,すべてのDLB症例の中で後頭葉取り込み低下を示す割合は7割弱に過ぎません.正常コントロールに対するDLB/PDDの血流低下部位は前頭葉,頭頂葉,頭頂後頭葉,視床であることが分かっており,決して後頭葉のみに血流低下が生じるのではないことは肝の銘じておく必要があります.なお,パーキンソン病とレビー小体型認知症の間にはSPECT上の差異はないとされています.

⇒ 2018年03月:
        パーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)の共通症状―非運動症状

先月に引き続きPDとDLBの共通症状のうち非運動症状について解説します.
非運動症状はレビー小体が多系統の神経系に分布することを背景に出現します.実はこれらの症状の原因(出どころ)がPD/DLBであるとは気づかれず,症状別に各種診療科への無用な受診を繰り返し,不適切な多量投薬を受けてしまい(polypharmacyといいます),その副作用で病態をさらに複雑なものにしてしまうことが由々しき問題です.

a.自律神経障害:便秘や食欲のむら(消化器の蠕動低下),血圧の乱高下(安定しない),起立性・食後性低血圧による失神,各種排尿障害(頻尿・排尿困難・尿失禁).発汗障害(下半身発汗減少・上半身多汗)とその結果としてのうつ熱を生じる一方,暑い時期でも「寒さ」を訴えることが多く,この症状には「体感幻覚(実際には存在しない感覚を感じてしまう幻覚)」も加わっているように思われます

b.精神・感情・行動障害:抑うつ・不安(病初期にうつ病と誤診されやすい),各種不定愁訴(不安神経症に間違えられる),理不尽なこだわり現象(例:食パンが厚すぎる・薄すぎると毎日こだわる),他人の感情の理解障害(特に怒り・困惑表情を理解しないため人間関係が悪化しやすい),幻覚(幻視が多い),妄想(訂正困難な判断の誤り),衝動的行動(突然立ち上がり転倒する,病的ギャンブリング,性的逸脱行為)など.

c.睡眠障害:熟眠感がないことによる不眠の訴え,昼間の過眠,REM睡眠行動異常症(深夜~明け方の大声,四肢のばたつかせ,ベッドからの転落,歩き回る).REM睡眠行動異常症はPD/DLB発症の数年前から単独で認められることもあります.

d.認知障害:主に注意・実行機能障害・視空間処理能力障害が目立ち,記憶障害はアルツハイマー病よりも軽度である傾向があります.PD/DLBの記憶障害では,記憶の貯蔵(保持)自体の障害よりも注意・実行機能障害に基づく記銘(覚えること)や想起(思い出すこと)の障害の関与が大きいと考えられています.また,意識と認知レベルが大きく変動することが特徴です.

e.その他:身体症状発症から数年~10数年さかのぼる嗅覚低下,嗅覚障害に伴う味覚障害を呈することは少なくありませんが,この点に特化した病歴聴取をしないと発見できません.

⇒ 2018年02月:
        パーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)の共通症状―運動症状

先月のコラムで述べたように,PD(PDD)とDLBには相違点があります,
しかし,両者ともにレビー小体病でありますので多くの共通点を有していることも事実です.各症状を運動症状と非運動症状に分類するとわかりやすいと思います.

今月は運動症状について解説します. 運動症状はPDでは必須でありDLBでも合併することが多い症状です.この運動症状をパーキンソニズム(parkinsonism)と称します.主に安静時振戦(手足を動かさないで置いている時に出現する振るえ),筋強剛(手足を他動的に動かした時に感じる歯車様の抵抗),無動/寡動(体の動きが少ないこと),動作緩慢(動きが遅いこと),姿勢反射障害(バランスが取れないこと)が代表的なものです.PDでは症状の左右差があり振戦が比較的多いのに対して,DLBでは左右差が目立たず振戦が少ない傾向があります.また,運動症状の治療薬であるL-DOPA(レボドパ)はDLBよりもPDで奏功することが多いようです.

参考:パーキンソニズムの定義 1.
厚生労働省 難病情報センター(//www.nanbyou.or.jp
(1) 左右差のある典型的な安静時振戦(4-6 Hz),または
(2) 歯車様筋強剛,動作緩慢,姿勢反射障害 の2つ以上
2.Movement Disorder Society(Mov Disord. 2015;30:1591-1601
(1) 動作(運動)緩慢,および
(2) 筋強剛,静止時振戦の1つ以上

⇒ 2018年01月:認知症と神経疾患の話題

認知症を伴ったパーキンソン病(PDD)とレビー小体型認知症はどう区別する?
パーキンソン病(PD)症例が認知低下を合併する割合は,横断的に30%,縦断的に80%とされています.PDとして経過している方が認知症を併発してくると,突然病名がパーキンソン病からレビー小体型認知症に変更されるという「誤り」をよく見聞きします.
発症当初はPDでその後認知症を併発した症例は「認知症を伴うパーキンソン病(PDD: Parkinson’s Disease Dementia)」と称し,DLBとは一応区別して考えます.
まず,PDとDLBの診断基準を確認しましょう.
PDは身体症状(振戦,筋強剛,動作緩慢,姿勢反射異常など)が必須であるのに対して,DLBでは初期から進行性の認知機能低下(認知症)があることが必須です.DLBとPDDの病態がきわめて類似していることから,両者の鑑別法は操作的(人為的)に決められています.発症から少なくとも1年間は身体症状のみ呈しその後認知症を発症するものをPDD,一方,認知・精神・感情症状が身体症状に相前後してまたは身体症状発症後1年以内に発症するものをDLBと定義します.これを「1年ルール」と言います.
最近,この「1年ルール」に頼らずにPD/PDD/DLBを再定義しようとする提案が最近なされましたが(International Parkinson and Movement Disorders Society),それに対する反論も呈されており,この件についての論議はまだまだ続きそうです.

⇒ 2017年12月:
        パーキンソン病(PD)とレビー小体型認知症(DLB)はどこが違うのでしょうか?

世間でDLB(レビー小体型認知症)が知られてきたことは好ましいことですが,どうも「DLB」と「認知症を伴ったパーキンソン病(PDD)」との混同が激しいようです.
どちらも「レビー小体病」に属しておりその差は少ないのですが,発症してからしばらくの間の臨床経過に根本的な違いがあります. レビー病変(レビー小体・レビー神経突起)が脳幹にとどまっているものはレビー小体病の脳幹型(brainstem-type)と呼ばれ,これがPD(パーキンソン病)に該当します.
一方,レビー小体病のびまん型(diffuse type)ではレビー病変が脳皮質と脳幹に広く分布しており,このタイプがDLBに相当します. 認知症を伴ったPD(PDD)ではレビー病変が当初脳幹にとどまっていますが,経過とともに大脳皮質と辺縁系に広がっていきます.
一方,レビー小体病にはアルツハイマー病の病理(ベータアミロイド)が合併していることが多いのですが,ベータアミロイドはPDよりもPDD/DLBに多く出現し,さらにDLBではPDDよりもベータアミロイドの出現量がさらに多いと報告されています.
これらの所見は,PD・PDD・DLBが一連のスペクトラムを成すことを示しています.また認知レベルやその内容(記憶障害が強いなど),脳画像所見(海馬萎縮が強いなど)にはアルツハイマー病病理が関与していると言えましょう.

⇒ 2017年11月:レビー小体型認知症についてもう少し詳しく

2017年5月のコラムにてレビー小体型認知症(DLB)については簡単に触れました.重複する部分があろうかと思いますが,ここではDLBを「レビー小体病」の立場から解説したいと思います.
1817年にJames Parkinsonが「振戦麻痺」について著し,後にJean-Martin Charcotが「パーキンソン病(PD)」と命名したことは10月のコラムで述べたとおりです.
その約100年後の1912年,ユダヤ系ドイツ人Friedrich Heinrich Lewy(1885~1950)がPD患者の黒質細胞内に特異的なタンパク沈着を発見しましたが,Lewy 自身はPDにおける黒質病変をあまり重視しなかったようです.PDの黒質におけるこのタンパク沈着の重要性に目を向けたのは,当時パリ大学に在籍していたロシア人のKonstantin Nikolaevich Tretiakoff(1892~1958)でした.彼は1919年の医学博士論文(Tretiakoff K. Paris University, Paris, 1919)の中で,黒質色素細胞内の封入体を記載し,これが1912年にLewyが記載した封入体と同じであるとして,この封入体を”corps de Lewy”(フランス語で “レビー小体” の意味)と命名しました.
しかし.この時点ではまだレビー小体病の概念はありませんでした.その概念の発端となった論文は小阪憲司先生らによる65歳の女性の症例報告でした.この女性では,56歳時に頸部の不随意運動と進行性もの忘れが出現し,記憶障害と不穏状態を主訴に65歳で入院しました.入院時には筋強剛,腱反射亢進,高度認知症,無為が認められました.当症例は腸重積で突然死した後に剖検に付され,大脳皮質の老人斑,神経原線維変化(アルツハイマー病変)に加えて,脳幹には典型的なレビー小体(後の脳幹型レビー小体)が,さらに大脳皮質深層にはレビー小体より淡く染色されるレビー様小体(後の皮質型レビー小体)がびまん性に認められました.この症例がDLBの原点と考えられます.さらに,レビー小体とは,実は我々誰もが体内に持っているアルファ-シヌクレインというタンパク質が変性して凝集した物質であることが判明したのは1990年代後半ですので,レビー小体型認知症は比較的歴史が浅い疾患であるということができましょう.
このようにパーキンソン病とレビー小体型認知症は兄弟のような疾患であり,「レビー小体病」という大きな傘の下にパーキンソン病とレビー小体型認知症が入っているとお考え下さい.

⇒ 2017年10月:パーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)とは?

まず歴史から始めましょう.パーキンソン病の名前は,その疾患を最初に記載したイギリスのJames Parkinson(1755-1817)に由来します.彼はその著書 「An Essay on the Shaking Palsy」 の中では「パーキンソン病」とは呼ばず,「振戦麻痺(shaking palsy)」と記載しました.
これは「振るえて力が入りにくくなる」という意味でパーキンソン病の特徴をよく言い表していると思います.
その後,フランスの神経学者 Jean Martin Charcot(シャルコー) が1888年にパーキンソン病と命名し直し本日に至ります.
Charcotは振戦よりもむしろ筋強剛や動作緩慢の側面を強調しました. Parkinsonは的確な観察力により,「An Essay on the Shaking Palsy」の冒頭で次のように記載しています.” Involuntary tremulous motion with lessened muscular power”(不随意な振戦と筋力低下が), in parts not in action and even when supported(安静状態/支えられている状態の身体部位に出現し),a propensity to bend the trunk forwards(体幹が前屈位を取りやすく),pass from a walking to a running pace(歩いているうちに走り出してしまい),senses and intellects being uninjured(一方,感覚と知能は障害されない).この中で後世に訂正が必要であったものは「知能は障害されない」という部分でした.「An Essay on the Shaking Palsy」は6例の症例報告ですが,驚くべきは6例中何と2例は路上で偶然出あった症例であり,もう1例は単に遠くから見かけた症例なのです.
このようにパーキンソン病は「見ればわかる」疾患なのです.

⇒ 2017年09月:「レビー小体病」とは何ですか?

それでは,「レビー小体病」とは何でしょうか?レビー小体病とは,8月にお話ししたレビー小体と,アルファ-シヌクレインが神経突起内に沈着したもの(レビー神経突起)が体内に蓄積する一連の疾患の総称です.
そのグループ内には,「レビー小体型認知症,パーキンソン病,多系統萎縮症」が含まれます.レビー小体病の特徴はそれが脳だけではなく全身臓器を侵す病であることです.以下,レビー小体とレビー神経突起をまとめてLB病変呼びますが,LB病変は中枢神経系だけではなく,嗅神経,自律神経系,消化器,心筋,皮膚などの全身の組織に蓄積します.レビー小体病の3疾患の違いは,専らどの臓器にLB病変が蓄積するかによって決まるといっても過言ではありません.そのほか,LB病変が体内に蓄積しているがレビー小体病としては発症せず,レム睡眠行動異常症や起立性低血圧などの症状のみを呈する症例もあります.
このような症例が数年後にレビー小体病を発症しやすいことも分かっています.来月以降は,神経内科の領域では頻度が高いパーキンソン病を中心に話を展開したいと思います.

⇒ 2017年08月:「レビー小体」とは何ですか?

「レビー小体型認知症」については2017年5月のコラムでお話をしました.一方,「レビー小体病」という用語をお聞きになったことはないでしょうか?しばらく「レビー小体病」の話をします.まず,そもそも「レビー小体」とは何でしょうか?以下,若干難しい話になりますがご勘弁ください.
「レビー小体」とはアルファ-シヌクレイン(α-Synuclein)というタンパク質が凝集したものをいいます.脊椎動物はそもそもアルファ-シヌクレインを有しています.アルファ-シヌクレインは特に嗅球(嗅覚の神経),前頭葉,線条体(脳深部にあり運動機能を携わる),海馬(記憶中枢)などにおけるドパミン作動ニューロンのシナプス前の神経末端に存在しています.アルファ-シヌクレインはシナプス機能に関連しているのではないかと推測されますが,その働きはまだよくわかっていません.さて,アルファ-シヌクレイン凝集の誘因ですが,アルファ-シヌクレインと関連している神経細胞膜の機能的な不安定性,アルファ-シヌクレイン関連遺伝子の変異,酸化物質によるストレス,異常リン酸化,カルシウムなどの金属イオンの濃度変化などの多因子が複合的に関わっていると推測されています.アルファ-シヌクレインが「神経細胞内に沈着したものをレビー小体(Lewy body)」,「神経細胞突起に沈着したものをレビー神経突起(Lewy neurite)」と称し,両者ともにレビー小体病を特徴づける病理所見です.

過去のコラム
【認知と認知症のコラム】 2016.07~2017.07